ずぶずぶと音がして、一瞬、何が起こったかわからなかった。そこの部分はやけに熱くて、粘ついている。
視線だけを落としてみると、そこの皮膚は爛れていた。抜き去られたときも、また、ずぶずぶと音がして激痛が全身を。
心臓を避けたけれども、どうやら致命傷のようだ。抜き去られた手と共に、覆面をした忍は消えていった。
本当にうかつだった。息ができなくて、あ、潰れたな、肺……それだけ感じて、力が抜けていった。あとは全く何も、覚えては居ない。



「い、おい、!気づいたか、うん?」
「え……ああデイダラじゃん」
「おまえなあ、ほんと馬鹿だな!うん!」
「は?何が……って痛っ」
「あーもう。何も覚えてないのかよ。いいから寝てろ、うん」

ほんとうにあきれた、と言うように、デイダラはため息をついている。ため息をすると幸せは逃げるって言うから、今デイダラが吐いた幸せを
わたしが吸い取ってやろうとしたら、胸がひどく痛んだ。そこではじめて、怪我をしていることに気がついた。
息ができない。せき込んでいると、デイダラが背中をさすってくれたので結構楽になった。

「ねえ、わたし」
「ああ、四日ぐらい寝てたよーうん。見つけたときはほんとにびっくりしたな。血だらけだったんだからな、うんうん!」
「え、嘘。助かって奇跡だねー」
「あたりめーだ!旦那が運んでくださったんだぞ。旦那もおまえの血がマントについてすごかったな、うん」
「デイダラが運んでくれたんじゃないんだー非力だね」
「オレはオレで……いろいろあったんだ、うん」

いろいろって、何が。なんて、デイダラの顔を見ていたら聞けなかった。いっつもバカやってるのに、何でこんな顔してるんだろう。口がへの字に曲がっている。
デイダラを凝視していると、起きましたか?と鬼鮫が台所から顔を出した。片手には包丁とリンゴが握られている。綺麗に皮がむけている。
やっぱり鬼鮫は料理上手だ。りんごの皮をむいたくらいで、料理とは言わないんだけれど、鬼鮫の作るご飯は何でもおいしいのだ。

「リンゴ、すり潰したのなら食べられますよね?」
「えーそのままがいいな」
「ダメですよ。まだその体じゃあ……ああ、イタチさん。おかえりなさい」
「ただいま。……何だ、起きたのか」
「起きちゃわるいか、ああ?!」
「あーもう、うるさい、うん!寝とけったら」

デコピンされて、まだ布団に寝かされた。静かにしてろって言われても、暇だし。早くリンゴ食べたいし。イタチとか、肉食ってるし。デイダラの奴も食いにいきやがった。
ちくしょー、わたしだって肉食いたいよ。サソリはたぶん、どっかうろついてるだろうし。結局、食卓ではデイダラ一人で喋ってる。

「そーいえば、たしかイタチがの傷、治療してたっけな、うん」
「それがどうした」
「いや、の服脱がすとき。イタチちょー顔真っ赤で、うん!あの顔はにも見せたかったなーうんうんっ!!それで結局、鬼鮫が全部やってあげたんだよな、うん!」
「おいデイダラ」
「なんだ、うん?」
「ちょっとこい」

あーあ、キレちゃったよ、イタチ。もうデイダラ死んじゃうね。わたしより酷い怪我しそうだよ。ほら、もう既に外じゃあ叫び声が聞こえる。あーやばい。
笑うと肺、痛いんだよね。それでも、小さく笑ってると、鬼鮫がりんご(すり潰しバージョン)を持ってきてくれた。相変わらず顔は怖いけど、穏やかに笑っている。
いいよな、こういう笑い方ができる人っていうのは。いや、鬼鮫は人なのか?

「で、なんでこんな酷い怪我。あなたらしくもないですね」
「あーちょっとね。考え事してて、呆けてた。もう気は抜かないから、大丈夫!」
「考え事って、それのことですか?」

鬼鮫が指差した先には、一枚の写真があった。半分血が付いていて、写っているものもおぼろげだ。その写真には、わたしの、姉が写っている。
確かに、あのときは姉のことを考えていた。鋭いな、鬼鮫は。嘘もつけやしない。

「でも、なんであの写真。絶対落としたなって思ったのに……」
「あれねデイダラが探してくれたんですよ。あなたがここで治療してる間も、ずっと探してたみたいですよ。おかげで、サソリさんにも怒られてましたけどね。
 お構い無しでしたよ。珍しかったですね……あんなデイダラは。あとで、感謝しといたほうがいいですよ」
「そうする……」

分かってくれてたんだって思うと、なんだか泣きたくなった。でもまた肺が痛むのは勘弁してほしいので、こらえた。変わりにりんごを口に放り込んで、台所に向かう
鬼鮫の背中をみていた。外では爆発音が聞こえる。バカだなあ、あいつ。ほんとバカ。こんなもんのために、任務ほったらかしにしなくてもよかったのに。
でも、まあ、ありがとう。それだけはちゃんと言っておこう。
ドアが開いて、見えたデイダラの姿は、髪なんか縮れちゃって、ほんとおかしくって。不意打ちだったもんで、またせき込んでしまった。
デイダラはイスに座って、自棄になって肉を頬張っている。なんでオレが、うん!なんて文句言ってる。

「デイダラー」
「なんだよ、うん!」
「写真、あんたが見つけてくれたんだって?」
「……」
「その、ありがとね……」
「……え?何か言ったか、うん?」

殴ってやろうか、ああ?!せっかく感謝してやったっていうのに、肉食ってて聞こえてなかっただけかよ!でもまあ、ありがたいことには変りは無いので、
怒鳴るのもリンゴを投げるのも我慢した。えらいぞ、わたし。すぐにイタチが入ってきた。ほぼ無傷だ。さすが、イタチ。まあデイダラも不意だったから、
手加減していたんだろうけど、あの髪の毛はおもしろいね。無表情でイタチは歩いてきて、振り上げた拳をデイダラの頭に命中させた。がつんっ。
いってーなあ、うん!とデイダラはまた怒っている。
そうしている間にどうやらサソリが帰ってきたようで、ただいまの一言もなしに「ああ、ドジ野朗、目が覚めたか」と暴言を吐いてきた。
言い返すことができなくて疼いているデイダラに、鬼鮫がサソリの分の肉を持ってきた。すごく楽しそうに笑っている。それを見ていると、わたしも何だか笑えてきた。

ああ、姉さん……わたしは毎日、こんなに楽しく過ごしているよ。今確かに、そう感じて、そう伝えたいと思った。
血だらけの写真に写っている姉も、やっぱり笑っていた。



(08.05.13)