この世に存在しているものは、いずれ消えてしまうものばかりだ。大事な宝物でも、いずれは失ってしまって、最後には消えてしまう。
欠片も無くなって、面影も無くなって。
ララララッラララッラン、ララララッララン―
着信メロディーが鳴り響く。この曲を歌っていた、一時売れていた歌手も、消えてしまった。着信メロディーに設定している人は、
わたしだけかもしれないな。

「なんだ、。おめえケータイなんかもってんのか、うん?」
「そうだよ。知らなかった?」
「旦那も、たしか持ってたな、うん……全然使ってなかったけど、うん」

当然、わたしより断然多忙なサソリは、ケータイなんか使う暇ないよね。
そんう思いながら自分の携帯のディスプレイを見て、本当に、死ぬほど驚いた。死人からの着信だからだ。


=着信 サソリ=


「デ、デ、デイダラ、ねえ!ねえってば!」
「なんだよ。あんまりビシバシ叩くな、うん」
「サ……サソリから、電話が!ねえ、ねえってば!」

デイダラは笑う。何がおかしいのさ。目を凝らす。デイダラの拳から、光が点滅している。

「ほんとは馬鹿だな、うん」
「まさか……デイダラ、あんた」
「あったりだあーうん!」

拳を開き、スライド式の携帯電話をつまんで、わたしの前に突きつけた。ニッシッシと、本当に嬉しそうに笑っている。
サソリの、携帯電話だ。白い、携帯電話だ。

「デイダラ……あんたねえ」
「おい、どうした。すっげー眉間にしわよってるぞ、うん」
「うざい!しんじゃえ!」

バゴッっと鈍い音がする。デイダラは吹っ飛んでいく。消えてしまえばいいのに、こいつも。わたしも。馬鹿、本当に馬鹿。こんな低脳な奴に、まんまとからかわれたわけだ。
なんで、こんな子供じみた冗談をするんだ。泣いてしまいそうだ。サソリから電話だと分かったとき。一瞬期待した。不覚だ、ほんとに。

「いってーなあ、うん……」
「こんな、こんなことしておもしろいの?!」
「いや、その……うん」
「サソリのこと、馬鹿にしてんの?!」
「あほいえ、うん!ただな……」
「ただ、なによ」

問い詰めすぎたのか、デイダラの頭が垂れた。機械的な目が、凄く目立つ。デイダラが息を呑む。

「旦那のこと、忘れてほしくないんだよ、うん。消えてほしくないんだ、うん……」

無駄だよ、デイダラ。足掻いたって無駄なんだ。消えちゃうんだよ、みんな。サソリも、あんたも、わたしも。
なのにあんたは、いつまでもそうやって、あんたが死ぬまで。サソリのことを引きずっていくの?馬鹿みたい、ほんと。何度馬鹿って言えばいいのさ。
やっぱりあんた、消えちゃえばいいんだよ。

「デイダラ。サソリは死んだんだよ」

しまった、と。後悔した。サソリが死んだなんて、禁句だった。なんとなく、暗黙の決まりごと、って感じだから。
当然の様に、デイダラは表情を消した。それと同時に、サソリの携帯電話がゴトリと、地面に落ちた。

「旦那は、死んでねえよ。死んでねえ……うん」
「ほんと馬鹿だよ……あんたは」

わたしの携帯電話を、デイダラに投げつけた。避けようともしないデイダラは、とても痛々しかった。
見ていられなくて、その場を逃げ出した。


この世に存在しているものは、いずれ消えてしまうものばかりだ。大事な宝物でも、いずれは失ってしまって、最後には消えてしまう。
それが命なら、尚更なんだ。
だからサソリは消えた。デイダラの心も消えた。わたしの慈悲すらも、消えた……
いずれ消えてしまう。分かっていても、苦しいんだ。

デイダラ、サソリは死んだよ。消えたんだよ。どうして、分かってあげられないの。




忘却の飼い主




(08.05.13)