ただ漠然と感じていた。死期がすぐそばまで来ているとは感じていた。ただわたしは目を瞑ってそれを待っていた。静かで、傲慢な時だった。生きていた意味を探していた
けれど、やはりそれは見つからなかった。充実はしていたけれど、どこか抜けていた。まあそれでも、結構。忍として生きるのは、全然苦痛じゃなかった。毎日決まった任
務をこなし、手を真っ赤に染める。それを見るのが待ち遠しくて、気づけば体が疼いていたいたこともあったかな。
でも、今ではそんなこと、全て無意味だ。絶無だ。死ぬのだから。
死に勝るものなし、うん、ダイダラさまの教えだ。死に勝るものなし。だからおまえは、沢山の死を届けるのが役目なのだ、うん。おまえの殺人は芸術的だ。
その言葉をかけてもらう度に、甘美な喜びがわたしを満たした。けれど求めることなど、非常に気だるかった。だからただ従い、頷き、血を舐め、綻びていった。そのほこ
ろびを、デイダラさまは見逃さなかったのだ。なんとまあ、目の鋭いお方であろうか。
そこから死は近づいた。いや、どちらかといえば望んでいたのかもしれない。死への欲があったのかもしれないし、その欲の中にはデイダラさまへの欲もあったのかもしれな
い。ああ、貴方様に殺めてもらう幸せがこの上なく素晴らしい。待ち遠しい。
ひんやりした鉄の輪が、首にはめられた。抵抗は無い。どうやら、殺してもらえるようだ。口元が緩む。久しぶりに、人間として屈託無く笑えた気がした。
デイダラさま、貴方は笑っていらっしゃいますか。
「おまえはあれだな……うん。死ぬんだ」
「わかっています。それは逆らい難い、定めです」
「ああ、おまえは利口な子だ、うん。さすが、オレの認めた奴だ」
「では何故、わたしを殺めて……」
空が高い。やがて血に染まるだろうなと思いながら、ふ、と問うた。本当に、いつものような何気ない問いだった。デイダラさまが振り返る。
これまでに見たことが無いほど、美しく、屈託無く笑った。ああ、こういう笑い方はすてきだ、とても。
「おまえはな、きれいすぎたんだよ、うん。あまりに純粋すぎた。美しくなりすぎたんだよ……うん」
美しい?このわたしが?何を言うか。わたしは汚れている。よく目を凝らし、見てください。
「わたしは十分、汚らわしいのです。そんな者に、憐れみなど必要ありません。それはいずれ、他の誰かにお使い下さい」
「ほら、それが純粋すぎるんだよ……うん。そうじゃなければ、お前は最高の忍だ。でも、おまえは忍じゃなくて、芸術だ、うん」
「ありがとうございます」
自然とまた、笑みがこぼれた。はじめてデイダラさまや、ほかの暁の方々から褒めていただいた時のようだ。あのころはただ褒めて欲しくて、がんばっていた。
これからがんばろう。そして、劣らないよう、己を磨こう。その決意も蔑ろになり、次第に汚れたいった。
首の鉄和がはずされた。
「あれだ、うん。死ぬ前に、一度お前を確かめたい」
「確かめるとは、一体」
「こっちにこい……それが最後の任務だ、うん」
言われるがまま、歩み寄る。
きつく、抱きしめられた。みるみる、血の気が引くのがわかった。代わりに上ってきたのは、涙と欲望だった。骨の軋む音が聞こえた。
嗚呼、もう、このまま砕いてください。幸せのまま、逝かせて下さい。それが最後の欲です。最後のわがままです。
あなたに殺していただければ、安らかに逝けますから……きっと。
「うん……おまえはやっぱり、汚れが無い。だから……さようなら、だ」
骨が更に軋んだ。息ができなくなってきた。なんと素晴らしい殺め方であろう。
最後の力を、腕にこめた。デイダラさまの顔の位置を確かめ、まさぐった。顔は心なしか湿っていて、優しさに満ち溢れていた。
あいしていました。
その一言が、どれほど愚かであろうと、関係は無い。死ぬのだから。ええ、デイダラさま、さようならです、永遠に。
わたしは崩壊した。
(08.05.04)