桜色の慈しみが わたしとあんたを 包んでくれるんだ
鬼鮫とイタチがアジトに帰ってきた。さっきの雨にもろにあたっていたんだろうか、びしょ濡れだ。鬼鮫はいつものように、桜餅を買ってきてくれた。
わたしのすきな桜餅はたまにデイダラとかイタチとかに喰われる。嗚呼わたしの愛しの桜餅。どうもイタチは桜餅よりも団子がすきらしいが、デイダラは違った。同様に桜餅がすきらしく、デイダラの手はよく桜餅を起爆粘土を造る為のものとまちがえて、むせていた。いっつもあの手はオエオエ言ってるくせに、あの時ばかりはケッホケホとか言ってたな。起爆桜餅なんてごめんだぜ……うん、とか言ってたけれど、それはこっちのセリフなんだなーうん。 その光景を見てか、鬼鮫が買ってくる桜餅は一つから二つに増えていた。もちろん、イタチの団子も忘れずに。鬼鮫はおはぎがすきらしい。意外と甘党だったんだ、と驚いた。それから、ほんとうに自然に、みんなでお菓子を食べて過ごす習慣が馴染むように入り込んだ。
ちゃぶ台とお菓子とお茶を囲んで、皆で食べる。その習慣はサソリが死んだあたりから出来たもんで、デイダラはいつもいつも、旦那だったらぜってー胡麻の団子喰うぜとか言っていた。目に見えない遺影を探すようなその言葉はいつも惨めにさえ見えるのに、デイダラは惜しんでいた。 トビがいないのは、鬼鮫曰く静かな人と時を守るためとかどうとか。そもそもこのメンバーは古来から守られている、って感じだしな。でも今は……。
鬼鮫が紙袋を、ちゃぶ台の上に置いた。中身は団子とおはぎ、それに桜餅が、ひとつ。それは、デイダラがいないことをさす。わたしはここに存在しているのだから。

「バカじゃん、ほんっとに」

何よりも先に、わたしはそう言った。さっきゼツがわたしのところに報告に来たときも、バカだよねって共感を求めた。なのにゼツはあの怖い顔とは違って、「デイダラとは仲良かったからね。ちょっと悲しいよ」なんて言ってやんの。カタカナーって感じて喋ってる方とは頭が痛くなりそうなので遠慮しておいた。

あたま流れる二文字、爆死。

鬼鮫もイタチも着替えが終ったらしく、ちゃぶ台のまわりにやってきて座った。鬼鮫はそうとう疲れていたらしく、お茶を入れる係りだというのを忘れているらしい。しゃーない、こんな時くらいわたしがいれてやるか。四つある湯のみのうち、使うのは三つだけ。それが妙に馴染まない。あたりまえか、ついさっきのことだしね。
熱いお茶をいれた。たぶん鬼鮫みたいにおいしくはないと思う。ため息をついて座った。鬼鮫がおっさんみたいな声で(いやもともとおっさんか)お礼を言った。

「ほんとあいつ、バカだよね。爆死とか、トビの言うとーりじゃん」
「まあそう言わないで下さいよ。デイダラもたぶん分かっていたんでしょうねえ」
「爆死がか?」
「そうですよ」
「あたし一回、デイダラの手にあるヤツよりもでっかいの、見たことあるんだよね。左胸あたりに。ぜったいあれで死んじゃったんだよ」
「そいつは知らなかった」

いつも無関心そうなデイダラの話に珍しくイタチが興味を引いた。団子を食べながら眉を上げてこちらを見ている。わたしも、デイダラの左胸を見たといってもあれはたぶん閉じている状態だ。なんか縫ってるみたいだったし。それを話したらイタチはまた無関心の顔に戻ってしまった。

「だいたいさ、爆死ってあれでしょ?肉欠片とか飛び散るんじゃないの」
「いやあ、そんなレベルじゃなかったらしいですよ。骨もなくなるほどの大爆発!」
「……うまい」
「それってさーデイダラのいってた芸術?!」
「そうでしょうねえ。でも死に際の爆発で、その左胸の口使ったんなら……」
「デイダラだったら史上最高の芸術っていうだろうね!」
「……うまい」
「でも死んじゃったら、それも言えないわけですからねえ」
「それってなんか変だなあ」
「……うまい」
「イタチはさっきから、うまいうまいばっか言ってるんじゃないっつーんだ。茶ぶっ掛けるぞ!」

写輪眼引っ張りだして、こっちを睨んできた。おーこわっ。さっきの愛らしい好奇心たっぷりの目はどこにいったのやら。はいはい、お茶かけるのはやめますよ。
やっぱりデイダラがいないと、わたしは最高に盛り上がれない。鬼鮫はいい人だ。でも真面目だ。でもいいひとだし話題もあるし、すきだ。問題はイタチだ。ボケというか天然というかなにより怖いし。やっぱりデイダラいないとだめなんだ。

「そうそう、トビと、えーっと……サスケだっけ?」
「死んだって言ってましたねえ。でもイタチさん曰く、サスケ君は」
「死んでいないな」
「じゃあトビは?」
「さー……姿見せませんからほんとに死んだんでしょうかねえ」
「わからんぞ」
「じゃあ何、デイダラは無駄に死んだわけ?」
「ことによっては、そうでしょうねえ」
「ははっ、やっぱバカじゃん……」


無駄に死んだデイダラって一体、何だったんだろうね。あんまりにも呆気ないから、泣けもしないのかな。それとも酷なだけか。ほんとバカだ。デイダラが今いたら、おいらは芸術になったんだから意味はあるってんだ、うん!とか言うんだろうな。ああどうしてこんなにも容易く想像がつくんだろうか。 ゼツがいきなり現れた。こういろんなところからにょろにょろ出てきてもらっては、休まる時間も無いんだけれどな。どうやらイタチと鬼鮫は任務があるらしい。

「アスラさん、デイダラのこと、葬ってあげなくていいんですか?」
「葬る肉欠片すらないじゃん。それにわたしは無宗教ですから。いつか埋もれて死んだジャシンサマ信者と違って」
「強がってばっかじゃ、サソリが死んだときのデイダラよりも惨めだぞ」
「……余計なお世話だって」
「じゃあわたし達は行きますね」
「行ってくる」

そういって出かけた二人の皿は、串意外何も無かった。お茶も、全部飲んでくれた。わたしはと言うと、なんとも。
また雨が降り出した。せっかくあの二人は着替えたっていうのに、不運な人たちだ。

ちゃぶ台の上にはひとつ、桜餅がある。それはいつかデイダラと取り合ったようなひとつでも、デイダラが食べる為のひとつでもない。それはわたしが食べる為の桜餅であって、遺影の前に供えるものでもない。そもそもわたしは無宗教だからそんなことはしない。デイダラは死んで、桜餅も何も必要が無くて、使わない湯飲みも何も必要ない。それだけの事なのに、わたしはとても寂しい。イタチの言う通り、強がっていただけだ。

「バカじゃん……ほんとに」

爆死して、わたしからみて無駄死にしたデイダラなんかとってもとってもバカで、笑えないほどバカで、肉欠片も何も無くなってしまうような最後を迎えるほどバカで。でもそれ以上に、強がってるわたしもバカで、泣きたいくせに泣けない自分もバカで、桜餅一つ食べられやしない自分もバカだ。
何より、デイダラの何に、気持ちを伝えれば。肉欠片も、骨もない。デイダラの本体の何一つ無い。
だからわたしは何に向かって、

すきだったんだよ。

そう伝えればいい?
居ない者に気持ちを伝えようと今更思って泣きだしてしまった自分は、爆死したデイダラよりも、ずっとずっとずっと、バカだ。
桜餅は食べたくない。塩辛い味の桜餅なんて、誰が食べたいと思うっていうんだ。


(08.06.07)