朝飯のご飯が一品な くなったのはあんた が渇渇言ってるから なんですけど! もうずいぶん前から、わたしの静かな朝も夜も崩壊していた。もっと大きなものといえば、平穏なのかもしれない。そんなことには全然構わず、時間は過ぎてゆくのだけれど。 スウェットのまま、鬼鮫の作る朝ごはんを食べに部屋を出た。ドアを開けた瞬間に、味噌汁のいい香り漂ってきた。以前までなら、さあ今日もすがすがしい、がんばるぞー!と意気込んではいたのだけれど、もう無理な事だ。わたしの静かで平穏な朝は崩壊しているのだから。 ぼーっと立っていると、鬼鮫が台所から顔を出し、おはようございます。と声を掛けてきた。無気力で返事をする気も失せている。かわりにあくびをした。 「今日もですね、デイダラは」 「しかたないよ。結局はあいつも人間なんだから」 「死んだのはなにしろサソリさんですからね。無理もないです」 「もーやめてよ。こんな事聞かれたらイタチに殺されるよー」 「ははっ、そうですね。さあさあ、朝ごはん、食べましょうか」 うぃーっと、これまた気だるい返事をした。 イスに全身の体重を任せると、背もたれの部分から首がうなだれた。視界に移るのは窓だ。その窓の向こうでは、まるでこの世の終わりのような景色がはなたれている。あ、また。爆発音が聞こえた。ごうごうと全てが燃えている。 不意に、イスがひっくり返った。それと同時に、机の上においてあった味噌汁がひっくり返り、床に零れた。 「何事ですか?!あーちょっと、もう。何をやっているんですか」 「頭うった……」 「もーさんまで。しっかりして下さいよ。てっきり起爆粘土が家の中まで飛んできたのかと思いました」 「あーそれも、ありかもね」 何を馬鹿なことを言ってるんです。とぶつくさ文句を言いながら、鬼鮫はこぼした味噌汁をせっせと片付けている。こんなときでも鬼鮫は世話を焼いてくれるんだね。 わたしはイスと一緒にひっくり返ったまま、ただぼーっとしている。爆発音が、強くなった。今窓を見上げても、外の景色は何も見えない。でも想像は付く。 サソリが死んだ。あの日からデイダラは変ってしまった。毎日毎日、起爆粘土を爆発させている。形状は適当なものになっていて、もはや芸術なんてものじゃない。サソリが死んだあの日から、そう。デイダラが変ってしまったあの日から、わたしの平穏は崩壊した。 「いつまでそうやってるんですか」 「……ちょっと」 「なんですか?」 「ちょっと、デイダラ見てくる」 イスはひっくり返ったまま、ごろごろと歩きもせずに、わたしはドアへと向かった。後ろでは鬼鮫がお行儀悪いですよとか、また文句言ってる。 ドアの前に来て、わたしは立った。たぶん立つのに一分はかかったと思う。 頑丈なドアを開ける。感じたのはものすごい熱気だ。すぐそこ。目の前にはデイダラがいる。まるで別世界で起きている殺戮のようだ。 「デイダラ……」 「……」 「ねえ、味噌汁、あるよ。鬼鮫がつくったやつ」 ごうごうと燃え盛る炎の中、デイダラがこちらを振り向いた。特徴的な目と髪の毛が、炎に威圧されている。何かをこちらに投げつけてきた。反射的に避ける。爆発音がした。ああそう、味噌汁が飲みたくて振り向いたわけじゃないのね。わたしにまで起爆粘土ぶつけようとしてくるなんて、そうとう狂っちゃってるみたいね。 デイダラはそっぽを向いて、また起爆粘土を爆発させた。わたしもそっぽを向いて、のろのろとドアのほうへ歩いていき、部屋にもどった。今のあいつの、どこがクールなんだろうか。 イスは起こされてる。まだ温かい味噌汁が、置いてある。鬼鮫が新しく味噌汁をいれてくれたらしい。 わたしはその味噌汁をのみながら、ああいつまでこんな日がつづくんだろーなーなんて、のん気な事を考えていた。崩壊こそすぐそこに来ているのに。 (08.07.08) |