は簡単に潰れるし、変色する

           
               まるで
のように、まるで すように







必読   1 2 (08,12,03)




















にご注意故、必読にございます

・慎吾さんと主人公との、ほんの短い時間のショートショートです。
・甘い話ではありません。全然甘くはありません。
・ですのでどうかtopの装丁に騙され、軽く話しを伺わないように。
・雑記を読んでくれている方(随分前のもの)は
ご存知かもしれませんが、このお話は復活したものです。
・存じない方へ。
 このお話は、は第一話のみちらりと雑記でほのめかすように
 公開されたりされなかったりしたお話です。
・え、そんな事はどうでもいい?すんません。それではバックよりどうぞ。






























































顔をしかめたは、フォークを放り出した。気にくわない、実に気にくわない味である。こっちを向いているの目がそう言っている。
ブブブ。ケータイのバイブ音が鳴った。あ、着信、女だ、女。焦った。どっちかというと、桃を食べ終えてから不機嫌なをどうしたものかと、そっちのほうが焦っていた。 女は、いつものことだ。今んとここっちは無視だ。とりあえずは新しい桃。甘くも酸っぱくもない桃。
バイブ音が鳴りっぱなしの携帯をポケットに入れて、台所に向かうためドアを開ける。

「あ、ねえ、ついでに桃、も一個ちょうだい」

初めからそのつもりだけど。しかし、今、ついでにって言いましたか。言ってたな。言ったな。はたぶん勘付いてるな。もしくは、気づいてる。 普通の奴なら、「ねえ、誰から?」とか、聞くんだけど。

「まだ喰うのかよ」
「甘すぎのも、酸っぱすぎのも、だめだから」
「へいへえい」

ドアを閉めた時、隙間から見えたの口角。上がってたな。たぶん、上がってた。
首の付け根が痒くなった。熱く滾るような、震えるような、それとも。疼くような。殺意にもにている疼きは、あの口角の形が脳裏から去った瞬間、消えた。
それこそまるで、殺意が、殺されたように。

(08.11.23)








































思わず顔をしかめた。甘すぎ。この桃、甘すぎ。気にくわない。わたしは甘酸っぱい方が好き。何でもそう。どっちかに偏りすぎは駄目だ。曖昧で、不安定なほうがいい。
ブブブ。ケータイのバイブ音がなった。わたしのじゃなくて、慎吾の。着信だ、着信。相手は誰かなんて知ってる。女だ、女。
うっわ、酸っぱい。桃も、気持ちも、両方。でも慎吾はいいよ。甘酸っぱいから。思わず口角が上がる。
慎吾はケータイをもったまま立ち上がり、ドアを開ける。下へ向かうものと思われる。電話をするために。誰にって、女だよ、女。名前なんか、しんないけど。

「あ、ねえ、ついでに桃、も一個ちょうだい」
「まだ喰うのかよ」
「甘すぎのも、酸っぱすぎのも、だめだかんね」
「へいへえい」

嬉しくなる。楽しくなる。知ってるんだよ、全部。それが楽しくて嬉しいんだ。慎吾、わたしが、ついでにって言ったのに気づいたか?電話のついでにって。もし普通の女なら、ヒステリーふりまいたり泣いたりするんだろうね。彼氏が浮気するのはそれはそれは大層不幸なことだものね。
でもわたしは甘酸っぱいのがすきだから、平気。むしろそれしか駄目だ。これでいい。これがいい。曖昧で、不安定なこの関係が、すきだ。
だからわたしはいつまでも桃を食べ続ける。曖昧を求め続ける。いつだって、幸福になどなれないことは分る。だけれどそうすれば、不幸になることなどないでしょう。
そもそも、幸福など、どこにあるっていうの。

(08.12.03)