ホコリが部屋の中を舞う。毎日掃除機をかけているというのに、一向になくなる気配はない。

電気、もしくは陽光を照らさない限り見えないこのほこりを一体何ボコリと言うのだろう。

部屋の中心にある、最近買ったばかりの水玉模様のテーブルには、ついさっき買ってきた

『愛されるためのコツ50』という、いかにも寂しい女を連想させる題の本が置いてある。

その本を持ち、書店のレジへと足を運んだとき、店員であろうずいぶん老けた婦人は一度この

本の題を見詰め、一瞬だが私の方に目を向けた。あなたのその顔なら、愛してくれる人は山ほ

どいるでしょうに…そう物語っている目であった。

愛されるコツ。そんなものは本当に存在するのだろうか。まあ一般的に言えば、やさしかった

り可愛かったりする顔立ち、性格。もしくは肉体もあり得るだろう。

なんだ、一度例を挙げてみれば枚挙にいとまが無いじゃない。

テーブルの上の本を手に取り、もう一度声を出して題を読む。あいされるこつごじゅう。指で

なぞったりもしてみる。ふっ、とため息をつき、まだ一ページも読んではいないその本を、何

の迷いも無くゴミ箱へと放り投げた。



* * *



「ねえ、篠岡は愛されるコツって何だと思う?」

「あいされるこつぅー?何、それ」

「…やっぱり質問を変えるわ。私ってどんな人かしら」

「んーそうだなあ…何ていうか、ね。ちゃんはさ、美人で頭もいいけど…ほら、人とあん
 まり関わろうとしないじゃない?何て言ったらいいんだろう……うーん…あっ!分かった!
 氷の女王様って感じだっ!」


喉元から笑がせり上がってきた。森の中の美しい泉で、きれいな水が滾々と湧き出てくるかの

ように。

私を見下そうというのかしら、篠岡さんは。冗談じゃない。

今度は深くため息をつく。15と言う実年齢よりも、遥に揩ッたものであった。

幸せが逃げちゃうぞーと、何やら謎めいた言葉が聞こえる。すかさず、逃げる幸せなんて残っ

ていないわ、と返す。すると彼女は、ムスっとした顔になり、乱暴に雑誌のページをめくり、

口を尖らせた。なんて感受性の鋭い少女だろうか。


「そーいう態度がいけないんだよー愛されたいんでしょー?」

「やっぱりやめた」

「へっ?」

あっけらかんとした顔でポカーンと口をあけている。駄目だ、今度は笑えない。



「私には篠岡さんがいるもの」

「…ちゃんは、わたしを阿部君から奪ってくれるんだね」



雑誌の隙間から覗く彼女の童顔が、ほんのわずかではあるが紅潮しているようであった。

氷の女王様ともあろう者が相手の頬を赤く染めるなど、やはり矛盾しているのであろうか?




あなたに愛されるコツ、
 (それはきっと、何より冷たい氷の微笑…だろうか)




(08.03.21)




(いろいろアレなとこは突っ込まずにシカトしてやってください)