沸騰するんだ。あいつをみてると、オレの本能とかが剥き出しになって、あいつがそれを沸かすんだ。剥き出しになっている間、オレはずっと沸騰しているからたまに爆発しそうになる。でもあいつはその寸前にさっ、と引くから、寸前のところでオレはシュワシュワと音を立てて冷めていく。
でもどーゆうわけか、今日ばかりはあいつが沸騰しているようで傍にいるオレは煽られて、体がちりちりする。

「たじま、あんたはこんなにきれいなのに、わたしは何にも知らなかったよ」

虚ろな目でそう語りかけるのには、きっと何か、あったんだと思う。
オレはただただバカだから、そんな事を悟ることもできない。なんて無力なんだろうと思う。

「わたしは汚れてるから、たじまと一緒には、いれないね」

申し訳なさそうに笑って、そのまま前に進んでいく背中をみていると、オレはもっと沸騰した。フツフツと沸いてきたと思ったら、グツグツと、煮え立ってくる。無力感も、愛も、欲望も、すべてが綯い交ぜになったものが沸騰している。それはやっぱり、オレをどういうわけか無茶苦茶にする。
すぐにあいつの背中を追いかけて、きつく抱きしめた。あまりにも華奢な肩は、これ以上抱きしめると、軋んで折れてしまいそうだった。

「ごめん、オレはそれ、無理そうだわ」
「なんで」
「どーしようもないんだ。爆発した」

素直に出た言葉だった。振り払おうともしないってことは、どうもオレにはまだ希望があるらしいと思わせる。
でもそれはとてもバカな勘違いで、あいつは、


「たじまだけは、たじまだけは汚したくなかったのに……」


それだけを呟いた。
あいつを離そうとしないオレの手に、何か生暖かい水かなにかがぽたり、と落ちてそれが涙だと知ったとき。オレの沸騰していたものはジュッ、と音を立てて、一気に冷え切ってしまった。



(08.06.27)