かやのそとだと、思い知るのだ



小鳥の柔らかなさえずりが聞こえた。人間の小鳥だ。
今日もオレの目の前で、たのしそうにお喋りしている。ピチチ、ピチチ。この声にはいつも、まどろ んでしまう。優しげな彼女の正確にも、顔にもぴったりな声だ。その声で、水谷くん。と呼ばれるのを、 オレは好んでいる。
しかし不服なことが、さえずりを交わしている相手なのだ。篠岡となら、満足げにいつまでもそれを 見詰めて、聴いていられると思う。けれどもさえずりを交わしているのは、阿部なのだ。 阿部は小鳥なんてものじゃなく、ただの肉食動物だと、オレは思う。いつも毒ばっかり吐いて、挙句の 果てにはオレに威嚇攻撃までしてくる。まあどちらかといえばマゾヒズムなオレは、まんざら嫌じゃな いんだろうと、花井に言われたことがある。そんな事はない。絶対に。
そんなオレに対しては肉食動物な阿部も、どうだろうか。の前では、小鳥のようだ。小鳥になりき
っている。実際、阿部との関係を動物的に例えるのなら、番い、なのだからまあ当然の事なのだろ う。阿部の目はいつも異常に垂れ下がり、ほおずえまでついている。今にも眠りそうな目をしているが、 実に楽しそうだ。も同様。

「阿部くん、阿部くん……」
「なんだよ?」
「あのねあのねー」

はははっ、と阿部の笑い声が聞こえる。静かで柔らかな声だ。ああ、阿部はこんな笑い方ができるのか。 知らなかった。とても自然で、すてきな笑い方だ。オレも、もし彼女と番いになれたら、あんな風に笑 えるだろうか。
教室の窓からは、日差しが降り注いでいる。オレの視界に移る二人は、パステル色にぼやけていて、 いかにも幸せそうな絵になる。オレがどれほど彼女を求めても、この絵を壊したいとは望まない。









(08.05.07)