おまえの目は、群青色の海だ

降りしきる雨の中、走り、追い詰めた。息が切れたは、木のたくましい幹に倒れこみ、うなだれた。
きつくきつく、このうえなくの喉に爪を食い込ませる。うなだれたれた首は、骨がないほどにだらりと垂れ下がっている。視界に何が入っているのかも理解しがたい。 まどろみか、幻覚か、もしくは諦念だろうか。潤いきった群青色の目は波立ち、今にも涙がちぎれそうにもかかわらず嗚咽さえ漏れてはいない。おまえは何のために生きて いる。なぜ、それを理解しようともせず、死にたいなど願う。死にたい。そういえるほどお前は生きたか。ああ、そうか。解らないから死にたいのか。
まだわずか、前の事……。





「死にたい、死にたいよ……デイダラ」
「ああ」
「楽になりたい。苦しみ生きるより、何処か遠くへ逝きたい」
「誘おうか、俺が、うん」
「デイダラが?」
「また戯言を。おいら以外に誰がいるってんだ、うん」
「……いや、だ」
「何を、いまさら。矛盾しているじゃないか、うん」
「……いやっ!!」

は走っていった。逃れるため、雨音の中を走っていった。
降りしきる雨の中、走り、追い詰めた。息が切れたは、木のたくましい幹に倒れこみ、うなだれた。 きつくきつく、このうえなくの喉に爪を食い込ませる。うなだれたれた首は、骨がないほどにだらりと垂れ下がっている。視界に何が入っているのかも理解しがたい。 まどろみか、幻覚か、もしくは諦念だろうか。潤いきった群青色の目は波立ち、今にも涙がちぎれそうにもかかわらず嗚咽さえ漏れてはいない。

「い や……デイダ ラ。や、めて」
「なんでだ。お前が、お前が死にたいといったんだろ、うん」
「あ、なたには、殺める……必要が ない」
「必要?そんなものはいらない。俺が誘うだけだろ、うん」
「デイダラ……あ なたは、可哀想な ひ と……」

朽ちた。ちぎれたの涙など、雨に紛れて落ちるだけだった。残るのは微かな温もりだけだった。瞳の群青色は失われ、乳白色の醜い瞳へと変貌を遂げる寸前だ。
見ていられない、この色は……。
きつく目を閉じ、自分の手での目を塞ぐ。何も苦しむ事はない。なのに、何故、こんなにも呼吸が乱れる。
デイダラあなたは可哀想なひと
何より鮮明に焼きつき、いつまでも脳裏にこだまする艶めいた美しい声だった。しかしそれには甘美な毒がある。気づかないほど小さいが、鋭利だ。 重かったのだ。こいつの命は重たすぎた。抱えきれない。 なぜ誘うなど、軽率な慰めをしたんだろう。それがいったい何だというのだ。あの群青を背負うには重すぎたというのに……。
手を、のまぶたの上に置く。この手を上にずらしたとき、目に見えるのは群青色であるように願った。刹那にして、その願いも乳白色に染まるであろう。




我等を群青に誘いたまえ





(08.05.05)