雨と涙まみれの、


カキーンッ。会場いっぱいに響く金属音。空高くへと行く、ボール。さっきまでバッターボックスに立っていた人を、唾を飲み、食い入るように見詰めていた観客達。 もしくは、私。知らぬ間に、ナイスバッティング…と、生気の無い声が口から漏れていた。無意識に出した声に、今では驚きもしない。クセだったんだ、と気づく。 そりゃあ毎日毎日、その一言を繰り返し発していれば、クセにもなるだろう。
うっしゃあああぁぁぁー!!田島が叫んだ。わたしより、ここにいる誰よりも生気満ちた声である。周りの応援団や、観客は、一斉に声を上げて喜ぶ。 はらり、温もりを保った涙がついに零れ落ちた。この雨なら、だれもわたしが泣いているだなんて、気づかない。声を上げなければ、いくらでも泣く事はできる。 田島コールが響く。それがまた、永遠に続きそうで、もっと涙が出る。だぶん田島の未来にはもっとすばらしい、盛大な歓声が起こるだろう。
試合前、田島はこんなことを言っていた。
「オレさあ、将来プロ野球選手になっから。今日はその夢のための、第一歩ってことでよろしく!ぜって勝つから、!ゲンミツに見てろよー」 返事はしなかった。そんな分かりきった将来、正直聞きたくもなかった。 怖いんだよ、田島。君がどっか遠くへ行っちゃうんじゃないかって…。いまでもその不安は拭えない。きっとこの先もずっと。 はらり、はらり。だめだ、もう抑えきれない。 歓声降る会場を走り抜ける。無明な階段の中で、わたしひとりの足音がむなしく響く。会場外には誰もいなかった。 わたしは存分に、声をあげ、叫び、崩れ落ち、泣いた。もうやめる、いずれ苦しくなるのなら。まだ二人の愛情が浅いうちに、やめる。 あんなわたしにも見せた事のない、どびきりの笑顔を見せられたら。わたしは野球、つまり田島の夢にはかなわない。そう理解せざるを得ないだろう。だから、さようなら。愛しき人よ…永遠に。



(それは、かれのかがやかしいみらい)



(08.04.14))


(ほんのり原作沿い)