死んじゃえ、そんな言葉、わたしにはあいさつだ


「、大丈夫、だいじょうぶ落ち着け、な?ほら、ゆっくり息吸え」
「……っう、 ん……」

ポケットでカサカサいってる。言っておくが、ゴキブリじゃない。何の変哲も無い、茶色の紙袋。これがないとわたしはいきていけないから。 そう、わたしは過呼吸症候群。クラスメイトからのいじめでたまったストレスが、どうやら原因らしい。そうやって病院で診断されたとき、クラ スメイトへの憎しみよりも、自分の弱さと脆さに愛想が尽きた。きっとこれで、親友の泉にも周りと同じように見捨てられる。そう思っていた。

「ほら、な。落ち着け。ゆっくりでいいから」

なぜ?泉、あなたにそう聞きたい。なぜ、あなたはわたしを助けてくれる。なぜ、周りの人と同じようにわたしを見捨てようとしない。なぜ、なぜ。
わたしがいつものように、真っ暗な体育館倉庫に閉じ込められていたとき。あなたはマットの上に座って、こういったよね。

「、おまえさ…紙袋、必需品なんだろ。だったら、おれがそいつになってやるよ」
「……やめといたほうが、いいよ」

さもないとわたしと同じ目に遭うから、と。そして彼はいった。

「お前と同じ存在になれるなんて、光栄だな」

素直に喜べなかった。なのに、不意に涙が出たのは何故だろう。不幸な人を増やしてしまうだけなのに、それでも彼は光栄だと……確かにそういった。
それから泉は、いつもわたしのそばにいた。おかげでもっと女子から嫌われただろう。冷たい視線、言葉はわたしに向けられたもの。だから泉、あなただけにはこんな気持ちを感じてはほしくない。 そう願えば必ず、泉はわたしの髪をくしゃくしゃした。心を見透かされていたというより、顔に出ていただけだろう。

「っ、もう、 大丈夫……」
「ああ……そう。ならよかった」

そう、あのときから過呼吸になれば必ず、泉の胸に顔を埋めた。最初は半ば強引に、泉に押さえつけられていただけだった。 けれどいつもの孤独は感じなかった。水やチョークの粉まみれになったとき、腕を傷つけたとき。あんな苦しみを、いつもなら感じていた。 でも泉の心臓の音、温かみ、優しい声。それらがすべての痛みからわたしを守っていた。紙袋の中で呼吸するよりも、遥に安らかだ。
そして今更気づく。わたしはこんなにも守ってもらっているのに、泉になにも伝えてはいない。わたしはこんなにも救われているのに。

伝えなければ、今、ここで。ありがとう、それだけでも十分。
でも、好きだと言えれば尚、良い。とにかく、何か一言でも……後悔する前に、伝えておこう。



 (ポケットから取り出した紙袋は、もう必要ない。あなたがいるから…でしょう?)



(08.04.03)



(いじめられてる設定ネタ)