ふたつにひとつ、さあ…どちらだ?


少しばかり、肌寒い。春は過ぎ、雨の降る季節がやってきた。屋上下の踊り場に、なぜかオレはいた。上を見上げると。小さなガラス窓から 灰色に広がる空しか見えない。じきに雨が降る。もしかしたら、オレ、もしくは三橋の心の中に。 タンタンと、軽快に階段を上ってくる足音が聞こえる。直感でだと気づく。こんなところ、誰かが呼び出さない限り来やしない。さぼり 目的な奴は、また別だが。

「なに、隆也。こんなとこ呼び出して?」
「え、あーのさ……」
「あ!わかった。わたしの落としたテスト用紙、持ってきてくれたとか?たぶん廊下に落としたんだと思うけど、見つからなくてさー」
「あほか、ちげえよ」
「じゃあなに?……その紙、やっぱりテストでしょ」
「だからちげえって。その…聞きたいことあって」

違う、本当はそんなことの為に、ここに来たんじゃない。が行ったとおり、渡すものがあるからだ。言っておくが、テストじゃない。 三橋からのラブレターだ。部活の帰り、三橋から頼まれた。周りには田島たちもいたので、空気を呼んで受け取った。だけど快く受け取った わけじゃない。なんでオレの好きな奴に、他人からのラブレターなんか渡さなくちゃいけねえんだよ。そう思っていた。今更断る事はできな い。だからと言って、このオレだ。黙って終らせようなんて思わない。その分、焦っていた。

「聞きたいこと?じゃあ早く済ませてよね」
「あのさ、もしオレと三橋から告白されたら……その、どっちと付き合う」
「なっなに、それだけ!?」
「いいから、答えろって」
「……み、みはしくん かな?あっ隆也が嫌いってことじゃなくて!その……隆也だけに言うけど、みはしく んの事、すきなん、だ」

降ってきた、雨が。小さな窓に、水滴がたくさんついてくる。それに雨が降るのは、三橋じゃなくてオレだった。しわくちゃになりそうな 三橋のラブレターを、そっとに差し出した。

「これ、三橋から。手紙」
「えっ、うそ。やったー!何かいてるんだろー」
「……三橋、お前の事、すきなんだって」
「え……う、そ……」

ああ、泣いちゃったよ。ごめんだけどさ、泣きたいのはオレだから。 細い指、ちいさな手で口を押さえて大粒の涙を流している。 だぶん、今のオレは眉間にしわを寄せて、垂れ目なんかつり上がってるだろうけど。こんなにが泣いているのだから、見えてはいないだ ろう。それがせめてもの救いだ。オレがこいつのことを好きだってことがばれたら、またおかしなことになる。

「何て書いてるんだ」
「っ……ひっく うっ……」

だめだ、こいつは今、首振ることしかできねえみたい。雨が強くなってきた。普通、こんなときに誰かの告白が成功したんだったら、天気は晴れだろうに。 今日の空は、オレの事慰めてるつもりなんだろうか。よけいなお世話だなあ。

「じゃ、オレ先行くから。ちゃんと三橋と、話ししろよ。じゃあな」
「ったか、や!」
「なに……」
「あり がと」
「わかってる」

一体何にありがとうだなんて、言ってるんだか。まあ、オレがのことをすきだって事はばれてはいないだろう。なんせ、あいつは鈍感だから。
トン、トン、トン……みたいに軽快な足音じゃない。むしろ重い。
何か踏んだ、のテストだ。31点って……田島よりバカだ。でもあいつは、幸せになれるだろうな、バカでも。
まずは、三橋におめでとうだけ言って。花井にでも話してみよう。
オレが泣くのは、それからだ。





























  (他人の不幸せを願うほど、オレはバカじゃあない)



(08.04.02)



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