ガリガリガリガリ、部屋中に虚しく響く。ガリガリガリガリ。卑怯ね、栄口くん。わたしを置いて、先に光を浴びるなんて。わたしは今でも辛いよ、
なのにあなたは平気なのね。ガリガリ、手の甲を噛む。ガリガリ、あの頃あなたと噛んだように…ね。あなたは母を亡くしたね。わたしは家族を無
くしたよ。無くしたものと、その苦しみが続く時間は比例するのね。悲しいよ。ガリガリガリ。だからあなたはいち抜けたね、わたしを置いて。
おかげでわたしは、あなたまで失ってしまったよ。夢のなかであなたに聞かれるの
「、おまえの大切なものって何さ」
たいせつなもの?無いよ、なくしてしまったの。あなたも、そう全て。今あなたは笑っているのよね、いいな。ガリガリガリ。わたしの分の笑顔まで持っていってし
まったものね。それでもいいよ、あなたなら。
さあ、今日も明日もその先も…ガリガリガリ…。
止めてくれる人がいないの、わたしには。やめたいよ、こんなこと。苦しいもの…辛いもの。でもわたしは、やめないよ。なぜかって?
栄口くん、あなたが「やめろ」といってくれる日を夢見ているからよ?永遠の眠りの中で、ね。
* * *
ガジガジガジ、布団の中でこだまする。オレは逃げたよ、からも母さんからも。ガジガジガジ。仕方なかったんだよ、あの頃も今も…俺は弱い
から。ガジガジガジ、これはもう、オレの一部になってるな…。情けないな、まったく。でも抑えきれないさ、この気持ち。一体だれが、オレを救
ってくれる?ガジガジガジ、そりゃあ…一人しかいないだろ?なんだ、分かっているんじゃないか。ガジガジガジ。でもそのまえに、おまえを救って
あげなくちゃいけないね。だろう?だからオレは、あの部屋を出たんだよ…分かっているのか?
俺は今日も待ってるよ、おまえを。
おまえがあの部屋から出てくる日、それ日がオレの救われる日。二人一気に救われる、まさに一石二鳥じゃないか、だろ?
それまで、永遠に…ガジガジガジ…おまえが、俺の元にやってくるまで。そう、永遠に時が止まったままの…この部屋で。
交えない、思い
(失えど、永遠につづいていくもの それこそ真の求めるもの)
(08.03.21)
(二人の思いは、クロスすることは無いでしょう)