世界で一番嫌いだと言ってほしい人がいた。
わたしを拒んで、嫌って、突き放してほしい。よければ短冊に書いて願いたいほどに。日番谷はよかれと思い、弱いわたしを守ってくれるけどわたしにはとても苦痛だ。嫌悪してしまう。こんな自分に反吐が出る。守ってもらっていながら、苦痛を感じる。最低の人間だと分かってる。だからわたしを嫌ってほしい。
「、大丈夫か?」
「日番谷……」
「隊長、だろーが。おまえも死神になったんだろ。こんくらいの虚、どうにかしなくっちゃな」
「日番谷隊長とは、違いますから」
「ほら、立てよ」
手が差し伸べられた。日番谷は背が低いのに、わたしはしゃがみ込んでいるから、今は見下ろされている。なのに日番谷の目は全然怖い目じゃなくてむしろ優しいからわたしは心臓の辺りがすごく痛くなった。喀血しそうなくらい苦しい。いつもそうだ。手を差し伸べられては握り返し、強くなると決意しても成果は無し。その繰り返しだ。所詮、才能に乏しいわたしは努力するしかないのだ。更には努力しても全然強くなれないんだから、わたしはもっと醜い。所詮届かない。肩など並べられるものか。知っている、とうの昔から知っている事だ。
やさしくたくましい手を、わたしは思いっきり払った。同時に涙が零れた。
「、おまえどうしたんだ」
「別にどうもしないです」
「じゃあ何で泣いている。そんなに怖かったか?」
「全然」
「じゃあどうして」
「教える義務は、ないですから」
「俺がそんなにイヤかよ」
「ははっ、まさか」
笑ってみせた。心から笑っていたのかもしれない。違うよ日番谷。わたしはあんたが嫌いじゃなくて、嫌ってほしいんだ。鈍感なあんたにはきっと一生分からない。嘲るような笑いをする自分に、また反吐が出る。まだ笑っているのに、笑えるのに、目からは塩辛い水が溢れて止まらない。日番谷の手が伸びてきた。涙を拭おうとする日番谷の手を、わたしはまた強く払った。一瞬触れた手はとても冷たかった。
「やめてください。もう子供じゃないんです。一人で立てますから」
「……そうか」
「そうですよ。日番谷隊長と比べて、背は高いですから」
「んだと?!」
「ははっ、冗談ですよ」
「おい、やっぱりお前、変だぞ」
「全然。勘違いですよ」
昔からあんたを知ってるわたしが、敬語を使うのも変だとは思わないか、日番谷。わたしはずっとまえから変だ。何を今更言っているんだ。また、冷たい手が伸びてくる。わたしは小刀で日番谷の手を刺そうとしたけれど、あっさり避けられてしまった。氷のような冷たい目が、こちらを凝視している。
「日番谷、あんたはなんにも分かっちゃいない」
小刀を投げつけたけれどそれは容易に避けられるほどだった。でも特別に、小爆発性の物だったからさすがにそれは予想できていなかったみたいで、日番谷の頬には少し血がにじんだ。こんな無礼な自分にも、本気で反吐が出そうだ。
背後に冷たい冷気を感じると共に、名前を呼ばれた気がした。嫌いだ。この声も冷たさも優しさもすべてが。
世界で一番嫌いだと言ってほしい人がいた。これほど威嚇をしてもあなたは追ってくる。世界で一番嫌ってくれたはずなのに。
逝く果てに
なにを啜ったかと
思えば